第十四話:芝居

目前に繰り広げられている光景に圧倒され、女の思考はオーバーヒートを起こしていた。
そんな女の様子を悟り、男はゆっくり口を開いた。
「あのさー刑事さん、彼女と暫く会えなくなるんなら、お別れの挨拶くらいさせて貰えねぇーかなー。」
「貴様ほんとに自分の立場をっ!」
先程も男を怒鳴りつけた黒尽くめの男が勢いに任せた言葉を発しようとすると、女刑事がそれを制止した。
「およしなさい。みっともないわよ。さっきもご令嬢に呆れられたばかりでしょ。これ以上の恥の上塗りは
 やめましょうよ。・・・いいわ。3分時間をあげる。」
女刑事は男が女に近づく事を許すと、男を拘束している黒尽くめの男に近づき、拘束役を代わった。
女刑事に連れられ男はゆっくりと女に近づくと、しゃがんで女に目線を合わせた。
「今まで騙してて悪かったな・・・。」
男は周囲に聞こえるようにそういうと、手錠で繋がれた両腕を上げ、腕のなかに女をすっぽりと納めた。
驚きの表情を隠せない女の瞳をとらえると、男は女に強く口づけた。
女の伏せられた睫の間をぬって涙が一筋、蒼白になった女の頬を伝った。
男と女の突然の行動に一瞬そこにいた誰もが視線を外した。
男はゆっくりと唇をはなすと、言葉にはせず女にメッセージを送った。

―オチツケ ダイジョウブダ

女も無言のまま、メッセージを受け取ったことを示した。
男はその様子に満足すると女から自身の腕を外し立ち上がった。
「ほら、いくぞ!」
黒尽くめの男が再び男を拘束し、男を押し出すようにしてリビングから離れた。
「リョウ!!あぁぁ!」
その後姿を見送ると、女は泣き崩れた。
「野上刑事その女はどうしますか。」
「落ち着いたら私が署まで連れて行くわ。冴羽僚とご令嬢を頼んだわよ。」
「わかりました。」
その場から黒尽くめの男達は姿を消し、リビングには女と女刑事のみが残された。

暫く泣き伏していた女であったが、男たちの足音が玄関の向こうへと消えたのを聴覚のみで確認すると、
むっくりと起き上がり、女刑事に詰め寄った。
「ちょっと〜っ、冴子さん。これはどういうことかしら〜?」
「あ、アハ、ま、香さん今説明するから、座って。ね。」
女は顔いっぱいに不満を呈し、ソファにどっかりと座った。
「本当はあなたに事前に話をしてからと思ったんだけど、ちょっとせっかちな人間がいてね。邪魔されちゃったの
 よ。でもひょうたんからコマってやつだったかも知れないわね。お二人の関係が前進している事がわかって。」
女刑事の言葉に女はあからさまに赤面した。
「本題に戻るけど、美香さんの自宅に脅迫状が届いたの。」
「脅迫状?」
「ええ。身代金を要求してきてるわ。」
「え?でもなんでそれで僚が逮捕されなくてはならないの?僚は美香さんをガードしているのよ。」
「美香さんのお父様は真面目な人なの。僚のような商売が成り立つことも許せないようなお堅いひとなの。
 それと私の父と親友ということもあって、父に直接通報してきたのよ。」
女はそこまで聞いて、女刑事が正攻法をとらざるを得なかったことを察し苦笑した。
「で、こっちで上手くやろうと思ってたんだけど、あのプッツン親父プロジェクトチームまで作っちゃて。
 ま、そのリーダーが私って事は唯一の救いだったわね。で、ま警察の方で美香さんの身柄確保するのに
 逮捕劇が一番てっとり早かったってワケ。単純なメンバーで構成されてるから、うちのチーム。」
女刑事はそう言ってウフっとかわいらしく笑ったが、自分がそう仕向けたくせにと女は心の中で呟いた。
「おそらく美香さんは最初、あなた方に近づく為に自分を狙撃する依頼をしていたと思うの。
 それをどこかで嗅ぎつけた、おおかた、美香ちゃんのお父様に恨みを持つやつがそれに便乗して
 美香さん殺害を企てた。でもシティハンターがガードしている事を知って方向性を変えてきた。
 高額な現金とシティハンターをこの世界から封印する一石二鳥の計画にね。」
「冴子さん随分詳しいのね。僚から何か聞いてたの?」
「いいえ。美香ちゃんの考えそうな事と現状を冷静に判断した結果よ。」
「そういえば以前電話くれたわよね?それは美香さんの行動を予測していたから?知り合いなの?」
「あの子、私の教え子なのよ。」
「ええ?じゃやっぱり冴子さん教師だったの?」
「違うわよ。家庭教師だったの。美香ちゃんは突拍子もないこと思いつく子で、それを実行してしまう子なのよ。
 で、周りの人間がフォローしてくれていることにも気づかず、実力だと思い込むようなところがあって。」
昨夜のやり取りを思い出して、女は苦笑した。
「ま、話はそれたけど美香ちゃんの身柄は警察で保護するわ。」
「でも、監禁していたわけじゃないのに僚に逮捕状だなんて、随分雑な扱いね。」
「ご丁寧に、脅迫状には"ご令嬢には普段どおりの生活をさせているが、常に腕のたつ仲間の一人をつけて
 いつでも殺害できるようにしている"と記載されていたのよ。それに、ほら、目撃者も多いでしょ。
 だから単純なメンバーがね・・ホホ・・。」
自分の思惑通りに動く人材を揃えたつもりが以外なところで足を掬われてしまった事に女刑事は苦笑した。
「"ホホ"じゃないわよ。で、どうするの?」
「一応事情聴取があるから、香さんにも署に来て欲しいんだけど。」
「わかったわ。僚は大丈夫だって言ってたけど、伝えてあるの?」
「今伝えたわ。」
「今って?」
「ほら、香さんのこれ、盗聴機でしょ?」
女刑事は女の衣服のボタンを指差して言った。
「え?そうだけど・・・。でもあいつ受信機持ってないわよ。」
「大丈夫。周波数合わせてワイヤレスイヤホンをさっき僚に近づいた時に耳に入れておいたから。
 受信機本体は護送する車の中に設置してあるわ。だから、今香さんに話した一部始終を聞いていた筈よ。」
女は女刑事の手際の良さに感嘆の声をあげた。

その頃護送される車の中で、男はひとり苦笑していた。
―最高の女優だったぞ
心の中でそう呟きながら。

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