男の言い分
空気が澄んでいるのがわかるほど、ぴりりと冷たい夜。
いつものように男はオレンジ色に灯る看板に引き込まれるようにして
扉を押し開く。
−いらっっしゃいませ。
R 「こんばんは。」
−何になさいますか?
R 「あー・・、いつものでいいや。」
−すでにどちらかでだいぶ召し上がってるようですね。
R 「あ?あぁ。何?やきもち?」
−いえ(笑)あんまり飲み歩いていると、かの美人が泣きますよ。
R 「あ?そりゃ、誰の話だ?」
−さぁ、誰でしょうかね。
R 「俺には、泣かせる女なんてごまんといるからなぁ。」
−泣かせたくない女はお一人でしょう?
R 「・・・・。」
R 「俺だって・・・ホントは抱きたくなかったんだ。」
−また、その話ですか。
R 「・・・。同じ話何度もするなんて、トシだよな。」
−そんなに後悔するのに、何故?
R 「・・・・。」
−ま、あんな美人に目の前ウロウロされたら、「いただきまーす!」ってなり
ますね、普通。
R 「そうなんだよなぁ。いや、昔は我慢できたんだよ。あいつも子供っぽ
かったし。なんかこう子犬みたいでさ。本当に妹みたいに思ってたんだ。
だが、この頃のあいつはさ・・・。」
−ぐっと色気が出てきた。
R 「・・・まぁな。」
−あなたにも一因あるんじゃないですか?
R 「ハハ、だといいがな。」
−惚れた女性を抱く、至極当然のような気がしますが?
R 「あぁ・・・。惚れただけの女だったらこんな後悔しやしないさ・・・。」
−それだけではない・・と?
R 「・・・恋愛ってやつはさ、始まりがあれば当然終わりも来る。その長さは
その時々によって違うがな。始めはいいが、じき倦怠期ってやつもくる。」
−そんな関係にはなりたくないと?
R 「あぁ、持ち込みたくないな。
お前もわかると思うが、女を抱くときってさどっか頭が醒めてるんだよな。
特に逝った後とかさ。そんな目であいつを見たくなかった。そんな目で
あいつを見る自分自身が無性にさ・・・。」
−許せなかった、ですか。 本当の肉親だったら良かったですね。
R 「まったくだ。・・・ん?そしたら俺妹を襲う変態になっちまうじゃねーか。」
−結局襲うんじゃないですか!
R 「人聞きの悪いこと言うなよ。」
−自然な流れだったんですよ。お二人は。
R 「無責任なこと言いやがって。」
−無責任?終わりを恐れてるあなたのほうがよっぽど無責任だと思いますよ。
R 「言うねぇ・・・。」
−結局失いたくないのでしょう?
R 「まぁ・・な。
なんつーか、一生じゃれ合っていたいっつーかさ。別に色気のある話
じゃねーんだ。ただ・・・。」
−ただ?
R 「死ぬ間際、あいつに傍にいて欲しい。・・・単純にそう思うんだよ。」
−結局のろけですか。だったら早く帰って今言ったことを言ってあげればいい
じゃないですか。何度となく逝かせるより喜びますよきっと。
R 「・・・うるせぇ。」
−あー、なるほど。
R 「なんだよ。」
−早く帰れば夜な夜な襲ってしまいそうなんですね。だから朝帰り。
R 「そんなことでもなきゃ、こんなところで独りで飲みやしないさ。」
−こんなところで悪かったですね。今日はツケはききませんよ。
R 「え?そ、そんな殺生な。俺とお前の仲だろ?何なら体で払うからぁ。」
−やめて下さい!気色悪い!!私はノーマルです!!!
カウンターに置かれた水割りは何度生まれ変わった事だろう。
しかし、いつもよりその回数が少なかった事を男は知らない。
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