「何処に行きましょうか?冴羽さん?」
「何処へでもお供しますよ、お嬢さん。」
「じゃ、まず久々に遊園地に行きたいんですけど・・・子供染みてますか?」
「いいや。」
男は依頼人の女の出で立ちとは不釣合いな提案に、笑みをこぼしながら答えた。
「それじゃ決まり!」
依頼人の女は照れながらも、満面の笑みを見せた。
「今度のクライアントはアミューズメントパークの関係者か何かかい?」
「フフフ、バレました?」
「仕事熱心だな、美香ちゃんは。」
「でも・・・、デートしたいって言ったのは本当ですよ。」
依頼人の女は少々顔を赤らめて男に絡めている自身の腕に力を込めた。
男は悪い気はしなかったが、他に気になっていることがあった。
「冴羽さん・・・?」
「え、あ、あぁ、嬉しいな〜〜。君のような美人に言われて、光栄だよ。」
男は依頼人の女を助手席のドアを開けエスコートした。
その頃女は朝食の後片付けを終え、自室のドレッサーの前で頬杖をついていた。
「まったく、何を勘違いしてんだ、何を!!」
鏡の中の自分を睨みつけ女は更につぶやいた。
「デート・・・か・・・・。」
馴染みのないその言葉は空しく部屋の中を泳いで消えていった。
「冴羽さん、次あれ乗りましょ、アレ。」
「美香ちゃん仕事の下準備で来たんじゃないの?」
「冴羽さん水差すようなこと言わないで下さい!デートでしょ、デート!!」
依頼人の女が満足した頃合を見計らって、男は依頼人の女をカフェへと誘った。
「さすがにお腹すきましたね、冴羽さん何食べます?」
「美香ちゃんと同じもので良いよ。君は何食べたい?」
「そうですね・・・、パガニーニとカフェオレのこのセットで。」
依頼人の女の意向を聞くと、男は店員を呼びオーダーした。
「ところで美香ちゃん、お探しの人は見つかったのかい?」
「冴羽さん〜デート中に他の男の話題を出すなんて〜〜。」
「いい加減、誤魔化すのはやめたらどうだい?」
男のかつて見たことの無い真剣な面持ちに依頼人の女は絶句した。
「この2週間、君の生活は事務所とアパートの往復のみだ。とても人探ししているとは思えない。
狙撃されたのも一度きりだ。」
「それは、あなたが守ってくれたから・・・・。」
誰かが依頼を中断したか、端から一度きりの狙撃の依頼か・・・。」
男は含みのある言い方をした。
「どういうことですか?」
「さぁ。質問したのは俺だけど?」
「どうかな・・・。」
男は店員からコーヒーを受け取ると、上目に依頼人の女を凝視しつつ琥珀色のその液体を口に含んだ。