第五話:仲間


パートナーが姿を消したという事実は、男の予想以上にまたたく間にその街に知れ渡った。
街の人間は口々に男がパートナーに何かをしたに違いないと囁き合った。
その情報は幸か不幸か、かの美人女刑事の耳にも飛び込むこととなった。
「ハ〜イ、僚いる?」
噂の美人刑事が男の元を訪ねた。
「さ〜えこ〜っ♪久しぶり・・・・。」
男が女に飛びつきかけた途端、女の平手打ちが男を直撃した。
「って〜〜・・・何すんだよ!!」
「それはこっちの台詞よ。香さんに何をしたの?僚!」
「なーんも。」
「何もしないのに香さんが出て行くはずないでしょう!!」
「本当に何もしてねーよ。しつこいなー。何で俺の周りって暴力症が多いかなー。」
男は女に打たれた頬を撫でながらぶつぶつと不平を漏らした。女は男の言葉に嘘はないが
原因がこの男以外に考えられないという事実も同時に認識していた。
「・・・ま、いいわ。で、香さんからの連絡は今のところ全くないのね。」
「ああ・・・。」
「どうするの?僚。家出人捜索願でも出すつもり?」
「ばーか。警察よりもりょうちゃんの情報網の方が優秀だっつーの。」
「その優秀な情報網でも捉えられていないんでしょ。質より量の手段をとったら?」
「あいつが出て行きたいって言ったんだ。ほっとけよ・・・。」
「らしくないわね。安全の確認くらいはできてるってことかしら?」
「・・・・・・・。」
「あら、できていないの?」
「俺の情報網に捕まらないってことは、あいつが俺を避けて隠れてるってことさ・・・・。」
「随分センチな発言ね。さらわれて監禁されてるってことは?」
「脅迫状も何もない。それに発信機が全て止められてる。」
「つまり、香さんの衣服全てのってことね。それだけの発信機を止めるには時間が必要ね。
 だから香さんの計画的な行動だとでもいうの?香さんが短期間にこんな綿密な計画一人で立てられると思う?」
「!!!冴子おまえ何か知っているのか?!え?どうなんだ!!」
男は女に食って掛かった。
女はふぅっとため息をついた。
「そんなに取り乱すぐらいなら必死で探しなさいよ!こっちもまだ何も掴めてはないわ。一般的な分析よ。」
「・・・・悪い・・・。」
男は思わず掴み掛かった腕をゆっくりと開放した。
「何かわかり次第連絡するわ。」
女は男にそういい残し、仕事があるからと早々に帰っていった。
男は女の背中を見送るとマリオネットの糸が切れたように脱力しソファに沈み込んだ。そして物憂げに空を仰いだ。
しばらくすると階下から、軽い足取りの足音が聞こえてきた。
(香?!・・・・・・いや違う。香の足音じゃない。しかも二人?!)
男の予想通り訪問者は二人だった。
一人は隣のビルで探偵社を営む女性、もう一人は美樹の店でアルバイトをしているうら若き女子大生であった。
麗香とかすみである。
「僚〜っ」「冴羽さーんっ」
二人の女は同時に男の名を呼んだ。
「香さんがいなくなちゃって次のパートナーが必要よね(ふふ・・・これで夫婦探偵になれる〜)」
「やっぱり男所帯はだめね〜ほらこんなに埃が(やったーこれで一族に帰れる〜)」
「やっぱりパートナーたるもの仕事の片腕は勿論、夜のパートナーもね〜。こんな小娘には無理よね。」
「あらぁ、こんなおばんじゃなくて若い娘の方がいいよね、冴羽さん。」
「なんですって〜。ちょっと聞いた?僚〜。」
「本当のことじゃないですか、ねえ冴羽さん?」
「・・・・ってくれないか?」
「え?何?僚。やっぱ夫婦探偵が良いわよね?」
「帰ってくれ。」
「え?やっぱり若い娘ですよね。レオタードの似合う・・・・。」
「帰れ!!!」
男の怒鳴り声とともに、かしましい女達の声はピタッと止み重苦しい空気のみがそこに漂った。
一瞬男の普段では見られぬ表情に二人の女は凍りついたが、次の瞬間には男の異常な様子を察し
尻尾をまいて逃げるようにして男の元を去っていった。
すると入れ違いに男と同類の男が訪ねてきた。
「おーおーご乱心かい?」
「・・・なんだミック・・・・何か用か?用が無いなら帰れ。」
「冷たいねぇ。お前そんなんだからモテないんだよ。」
「悪いが十分モテるんでね。お前まで俺が香に何をしたのか聞きにきたのか?」
「いや、むしろ逆だ。」
「どういうことだ?」
「お前香に何もしてないんだろ?」
「ああそうだ。何もしてねーよ。」
「それが駄目なんだよ。何もしないから出ていっちまったんだよ香は。お前ね長年一つ屋根の下で暮らしてきた
 家族でもない男によ、年頃の女が手出しもされないなんて女のプライドはズタズタよ。」
「なんだよ、それ。(っつーか本当に外国人か?お前は)」
「オーッかわいそうな香。早く言ってくれればこんな牢獄からいつでも助け出してあげたのに。」
「何が牢獄だよ、俺の住処を。」
「ま、ということだ。香クンもいなくなって寂しいだろうから、今日は俺がここに泊まってやるよ。」
「何言ってんだよ。ヤロウに泊まられても嬉しくねーよ。帰れ帰れ。」
「何遠慮してんだよ。厚意には甘えとけ。」
「遠慮なんか・・・・。あ、お前また何かやらかして、かずえくんに追い出されたな?」
「あ、バレた?後生だ僚!親友じゃないか。」
「何が親友だよ。俺を殺そうとしたクセして。(・・・本当に外国人か?)」
男は気乗りはしなかったが、この同類の男のおかげで束の間の笑顔を取り戻した事もあり、
今夜はこの同類を泊めてやることにした。


この夜も男は眠りにつくことができず、しばし天井をみつめていた。
(もう1週間もまともに寝てねーな。そういえばあいつがいなくなってもう1週間か・・・・。)
男は気分転換にとベッドを抜け出し屋上に上がった。
屋上からは眠らぬ街が男の気持ちを紛らわすかのように様々な光を放っている様子が伺える。
男はタバコを取り出すとゆっくりと火を点け、紫煙を燻らせた。
(誰も俺を一人にはしてくれないのな・・・・・。)
男はふっと口元に笑みを宿した。
(香・・・、お前意外と人気者だな。この街の連中は俺に原因があるはずだって言ってきかねーぞ。
 俺何かしたか?え?香・・・・・・?)

男は答えの出ない問いを朝日が街のネオンをかき消す迄投げかけ続けた。


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